Spice で聴く 一石アンプ
<お題目>
[1]一石ヘッドフォンアンプ (結果 元信号)
[2]一石 MOS-FET アンプ (結果 元信号)
[3]総評
[1]一石ヘッドフォンアンプ
ヘッドフォンアンプ製作というサイトに一石ヘッドフォンアンプの回路図がある。まずはこれを聴いてみよう。
(1)回路図
ダーリントントランジスタを2つのトランジスタに分けてバイアス電流を調整したのが次の回路図だ。
この回路は、使うトランジスタの hfe にあわせて R4 を調整しないといけない。このサイトでは R4 固定のままトランジスタを交換してるふしがあるがもってのほかだ。
51Ωの抵抗負荷のシングルアンプだ。
最
初に気づくことは R3
が150Ωと小さいことだ。接続する相手がかなりローインピーダンスな負荷までドライブできる機器なのだろう(LINE OUT とは考えられないのでサ
ウンドカードの出力か?だったらヘッドフォンもドライブできるんじゃないの?)。本文中にこれを10kΩのVRに交換する話がでてくるが10kΩに変更で
きるならなんで150Ωなわけ?(謎過ぎる)。この抵抗で音量が変えられると誤解しているふしがあるので勝手な想像をふくらませると、このアンプが繋がっ
てる機器の出力には直列に抵抗が入ってるのだろう(ヘッドフォン出力端子は直列に100Ωが入ってるケースが多い)。その抵抗とR3のと比率で出力電圧が
きまるのだろう。接続する機器の回路図がないとアンプの回路図として成立しないわけだ(困)。
次に気づくことは C2
がついてる理由が不明なことだ。VCCは交流的はGNDと等価なので Q2
のベースをGNDに落としてるだけだ。百害あって一理なしだ。
(2)周波数特性
優秀だ。
(3)THD
入力0.6V(p-p) で 1.62%(1kHz) 悪い。
(4)ダンピングファクター
DF = 22 問題なし。
(算出方法)
51Ω時の出力電圧 V51= 278 mV
102Ω時の出力電圧 V102= 284 mV
出力インピーダンス Z = (2.84mV-2.78mV) /( 278mV/51Ω - 284mV/102Ω)=6/2.6= 2.3 Ω
公称インピーダンスを51Ωとすると ダンピングファクター DF = 51/2.3 = 22
(5)スルーレート(SR)
100kHz矩形波の応答を示す。
優秀だ。
(5)試聴
結果 元信号
ぱっと聞くとアンプ出力のほうが元気よく聞こえるが。
元気になりすぎて細かな情感が失われてる。
(シミュレーション条件)
(6)評価
謎な回路の割にはいい音がする(歪みが多くてSRが早い。。。真空管アンプみたいなものか)。
THDによる音質低下がこの程度ならSRを上げる効果がいい方向に働いて音が改善される可能性はある。
”パワートランジスタを使用することで低音も期待できそう”とかあるが、パワーとランジスタだから低音がでる小型トランジスタだから低音が出ないとかいう物ではない。ナンセンスだ。いやブラックジョークなのか?
オ
ペアンプ(NJM4558)を使ったヘッドフォンアンプより音がよかったとあるが、4558のように出力電流が数mAしかとれなくてSRが1
V/us しかないオペアンプでヘッドフォンアンプを作るところが問題だ(NJM2114
使ってください)。オペアンプ式のヘッドフォンアンプよりこのアンプのが音いいとか悪いとかいう以前の段階に問題がある。
[2]一石 MOS-FET アンプ
お次のネタは DIY Class-A 2SK1058 MOSFET Amplifier だ。
(回路図)
シミュレータに直す
(2)周波数特性
ご立派
(3)THD
入力1.2V(p-p) で 3.97%(1kHz) かなり悪い。
(4)ダンピングファクター
DF = 0.57
致命的に小さい。
制動不足で低音がボンつくことが予想される。
周波数特性もかなり狂うに違いない。
(算出方法)
8Ω時の出力電圧 V8= 2.27V
16Ω時の出力電圧 V16= 3.33 V
出力インピーダンス Z = (3.33V-2.27V) /( 2.27V/8Ω - 3.33mV/16Ω)=1.06/0.0756 Ω= 14.0 Ω
公称インピーダンス8Ωとすると ダンピングファクター DF = 8/14.0 = 0.57
実際にスピーカーのモデルをつないで周波数特性をシミュレートしてみた。
モデルはこれ
4.5 dBも周波数特性が波打ってる。
(5)スルーレート(SR)
100kHz矩形波の応答を示す。
悪くはない。
(5)試聴
SPモデルをつないだ状態でシミュレートした。
結果 元信号
少しこもったような音になってることがわかる。
実際はスピーカーの制動不足でもっとひどい音になるはず。
(6)評価
A級アンプは音がいいというのは理屈だが、いい加減なやり方で作ったんじゃ駄目に決まってる。
[3]総評
THDが1%を超えるという非常識なアンプを2台聞いてみたが、THDによる音質低下は思ったよりひどくなかった。
特に[1]のヘッドフォンアンプを使えばSRが改善されるのでトータルの音質としては向上するのかもしれない。
アンプの音に対する回路構成の効果はさほど大きくなく部品の選択や電源回路の構成等に失敗すれば消えてしまう程度なのかもしれない。
1石じゃないアンプで同じことするとどうなの?って人もいるとおもう。これがTrpower0901改3-4の結果だ。もちろんスピーカーモデルも使っている。音の差を全く感じないはずだ。
(2009.12.12 追記) MOSをドライブできてない。。。
2SK1058のデータシートをみると Ciss=600pf, Coss=350pF, Crss=10pF とかなり大きいのに 13.5kΩ程度の入力インピーダンスでドライブできてるところが気になる。
MSK1058 のモデルから 裸のMOSのデータをとりだしてそれにコンデンサを外付けしてみた。
回路図は以下
周波数特性は
ちょっと悪い
やはりか。。。
回路図には 2SK1058 って書いてあるけど MSK1058 でないと駄目みたい。
フルボリウムで使えばいいといえばそうかもだが。。。
2009.12.12 sけいし(skeishi@yahoo.co.jp)