もう少しましなアンプの放熱計算
著者は70WのB級アンプならB級アンプの効率は50%くらいだから70Wの熱量が放熱可能な放熱器をつける。という方法をとってきた。
今回 もちょっと理論的なアプローチをしてみたので紹介する。
[1]B級プッシュプル段の効率
B級プッシュプル段の理論効率が π/4 (78.5%) なのはご存知だろう。
式をいじるとすぐわかることだが実際の効率は
(B級プッシュプル段の効率) = (出力スイング電圧のピーク値)/(電源電圧) x π/4
である。
出力スイングのピーク値は ((アンプの出力)x(負荷抵抗))^0.5 x 1.41 で求められる。
実際に電源電圧 ±35V 出力 70W のアンプについて 放熱量を計算したのが以下の表である。
表1 ±35V 出力 70W のアンプ の理論放熱量(8Ω負荷)
表2 ±35V 出力 70W のアンプ の理論放熱量(4Ω負荷)
8Ω負荷では放熱量が最大32Wしかないが4Ω負荷では63Wの放熱が必要だ。
やはり、約70Wの放熱器を用意するという経験則は間違っていない。
[2]熱抵抗の計算の仕方
(1)トランジスタの熱抵抗
2SC5198のデータシートをみると
Pc100W(25℃)、Tj=150℃だから
熱抵抗は (150-25)/100 = 1.25 ℃/W
2個のトランジスタをつけるので並列で 0.63 ℃/W
(2)シリコンシートの熱抵抗
シリコンシートの熱抵抗は 0.5~1 ℃/W程度だ。ここでは 1℃/Wとする。
2個のトランジスタをつけるので並列で 0.5 ℃/W
(3)トータルの熱抵抗
筐体内部の最大温度を40℃とすると、Tj = 150℃、放熱量 63 W だから
(150-40)/63 = 1.7 ℃/W
(4)ヒートシンクに必要とされる熱抵抗
1.7 - 0.63-0.5 = 0.6 ℃/W
かなり大型で高価なヒートシンクが必要だ。
[3]ドライバー段の放熱計算
B級プッシュプル段の効率は
(B級プッシュプル段の効率) = (出力スイング電圧のピーク値)/(電源電圧) x π/4
だからドライバー段の効率も終段とまったく同じだ。
ピーク電流は
70W 8Ωで 4.17A
70W 4Ωで 5.89A
データシートから 5.9Aでの hfeは 最悪 45(-25℃)だ。
ドライバー段の電圧スイングは終段と同じなので、出力電流だけが 1/hfeになったと考えればいい。
そこで、(ドライバー段の出力電力) = (終段の出力電力)/45 と考えて表をつくると
表3 ±35V 出力 70W アンプのドライバー段 の放熱量(8Ω負荷)
表4 ±35V 出力 70W アンプのドライバー段 の放熱量(4Ω負荷)
最大放熱量は 1.39 W 2個のトランジスタのプッシュプルだから 一個あたりの(信号成分による)放熱は 700 mWになる。
終段のバイアス電流を100mAとすると、それによるエミッタ電流増加は 100/45 = 2.2 mA。
ドライバーのエミッタ抵抗に流れる電流を10 mA とする。
非信号成分の電流はほぼコンスタントなので、平均電圧(35V)と掛け合わせたものが非信号成分による放熱になる。
35V x 12mA = 420mW
よって 1.14W (720mW+420mW) がドライバー段一石の総発熱量となる。
[4]表計算シート
このページの計算に用いた表計算シートをここにおいておく。(Open Office用)
2009.11.30 sけいし(skeishi@yahoo.co.jp)