あなたの出力段はボルテージフォロアか定電流アンプか
[1]定電流ドライブした出力段は基本的に定電流アンプ
図1をみてほしい。前段のコレクターの負荷を定電流源にした回路だ。エミッタ接地の負荷をハイインピーダンスにして電圧増幅率をあげた回路と説明されることが多いがそれだけの理解では不足だ。
コ
レクターつき合わせの出力インピーダンスが十分高く電流源とみなせる場合を考えてみよう。入力信号 I1-I2 が正の場合 I1-I2
は終段のNPNトランジスタに流れ込み hfe 倍されて出力される。入力信号 I1-I2 が負の場合はPNPトランジスタで電流増幅される。つまり、理想的な電流駆動をされた場合この出力段は定電流アンプとして動作するのだ。
図1 ダイオードでバイアス電流を与える出力段
[2]シュミレータでみる出力段の定電流アンプ的性質
シュミュレータで定電流アンプ的性質を確認してみよう。
図2のダイオードの真ん中に電流源をつないで8Ω負荷の電圧振幅を±12Vにしたあと、負荷を4Ωにしてみた。
表1 理想的電流駆動された出力段の電圧スイングの負荷抵抗依存性
入力電流(p-p) | 8Ω負荷主力電圧(p-p) | 4Ω負荷出力電圧(p-p) | 出力電圧比(8Ω/4Ω) |
16mA | 11.5V | 6.0V | 1.9 |
入力信号の周波数は1kHz, バイアス電流は 20mAとした
出力抵抗が 1/2 になるとスイングも 1/2 になっている。まさに定電流アンプの動作だ。
図2シュミュレータで用いたダイオードバイアスの出力段
単純なカレントミラーバッファ Trpowr0901の出力段 ダイアモンド回路についての結果が次の表だ。
表2 各電流バッファ形式についての出力抵抗を変化させた場合の出力電圧振幅の変化
(電流バッファの前段の電流電圧変換部がインピーダンス無限大の場合)
電流バッファーの形式 | 印加電流(p-p) | 8Ω負荷の出力電圧(p-p) | 4Ω負荷の出力電圧(p-p) | 8Ω/4Ω |
通常のダーリントンバッファ | 63uA | 11.4V | 6.1V | 1.9 |
単純カレントミラーバッファ | 16mA | 11.5V | 6.0V | 1.9 |
電流補償型カレントミラーバッファ | 0.07mA | 11.9V | 6.4V | 1.9 |
TrPower0901改2形式 | 0.7uA | 11.8V | 7.5V | 1.6 |
ダイヤモンドバッファ | 0.12mA | 10.7V | 6.2V | 1.7 |
入力信号の周波数は1kHz, バイアス電流は 20mAとした
8Vスイングを得るための電流はそれぞれ異なるが、どれもほぼ定電流アンプとして動作してることがわかる。
[3]実際の出力段の動作(定電流ドライブが理想的でない場合)
コレクタつき合わせで構成された定電流ドライブ段のインピーダンスが無限大なんてことは実際にはなく、インピーダンスは数kΩから数十kΩ程度だ。10kΩと考えると 12 Vp-pのスイングを得るためには1.2mAの電流が必要となる。
出力段の電圧スイングを得るために必要な印加電流が(電圧スイング/電流源のインピーダンス)より十分小さければ、出力バッファーはボルテージフォロワとして働き。十部大きければ定電流アンプとして働くはずだ。
表1表2をみると、ダイオードバイアス回路と単純カレントミラーバッファーは定電流アンプで電流補償型カレントミラーバッファーとTrPower0901改2形式とダイヤモンドバッファはボルテージフォロアだ。
この様子をシュミレータで確認してみた。
表2 各電流バッファ形式についての出力抵抗を変化させた場合の出力電圧振幅の変化
(電流バッファの前段の電流電圧変換部に2SC1815-2SA1015のコレクタつき合わせを使った場合)
電流バッファーの形式 | 印加電流(p-p) | 8Ω負荷の出力電圧(p-p) | 4Ω負荷の出力電圧(p-p) | 8Ω/4Ω |
ダイオードバイアス | 20mA | 11.2V | 6.4V | 1.8 |
単純カレントミラーバッファ | 20mA | 11.3V | 6.4V | 1.8 |
通常のダーリントンバッファ | 0.72mA | 11.3V | 9.7V | 1.16 |
電流補償型カレントミラーバッファ | 4.4mA | 11.1V | 10.4V | 1.07 |
TrPower0901改2形式 | 4.4mA | 11.2V | 10.9V | 1.02 |
ダイヤモンドバッファ | 4.4mA | 11.0V | 10.3V | 1.07 |
入力信号の周波数は1kHz, バイアス電流は 20mAとした
確かにTrPower0901改2形式とダイヤモンドバッファと電流補償型カレントミラーバッファーと通常のダーリントンバッファはボルテージフォロワとして、ダイオードバイアスと単純カレントミラーは電流増幅アンプとして働いている。
[4]定電流ドライブ段の出力インピーダンス
前節で”定電流ドライブ段のインピーダンスは数kΩ程度”と書いたが、ここに疑問を持った方も多いと思う。このことをシュミュレーション結果で示すことにする。用いるのは次の回路だ。
2SC1815
と2SA1015のベースにはダイオード接続されたトランジスタから一定電圧が与えられ、両者のコレクター間には一定の電流が流れる。これに電圧源から1kHz, 0.2mVp-pの
電圧をかける。低電圧源と測定点の間につながってる1mΩの抵抗は電流検出用だ。電源電圧は±16V、トランジスタのhfeは250に指定
した。
コレクタ間の電流を 1mA、5mA,, 20mA と変化させた場合の印加電圧と検出された電流から出力インピーダンスを求めた結果が次の表だ。
表3 定電流ドライブ段の出力抵抗
コレクタ間の電流 | 印加電圧(p-p) | 検出電流(p-p) | 出力インピーダンス |
1.14mA | 0.2mV | 4.0nA | 50 kΩ |
5.72mA | 0.2mV | 20nA | 10 kΩ |
22.9mA | 0.2mV | 79nA | 2.5 kΩ |
トランジスタ 2SC1815,2SA1015(hfe=250), 電源電圧±16V
高インピーダンスの電流源がいるときはどうするかというと下図のようにカスコード接続かウイルソン型カレントミラーを使う。
カスコード接続
表4 カスコード型定電流ドライブ段の出力抵抗
コレクタ間の電流 | 印加電圧(p-p) | 検出電流(p-p) | 出力インピーダンス |
1.15mA | 20mV | 1.5nA | 13 MΩ |
4.90mA | 20mV | 6.5nA | 3.1 MΩ |
18.45mA | 20mV | 28nA | 710 kΩ |
トランジスタ 2SC1815,2SA1015(hfe=250), 電源電圧±16V
ウイルソン型カレントミラー
表4 ウイルソン型カレントミラー定電流ドライブ段の出力抵抗
コレクタ間の電流 | 印加電圧(p-p) | 検出電流(p-p) | 出力インピーダンス |
0.99mA | 20mV | 2.8nA | 7.1 MΩ |
4.97mA | 20mV | 13nA | 1.6 MΩ |
19.88mA | 20mV | 58nA | 344 kΩ |
トランジスタ 2SC1815,2SA1015(hfe=250), 電源電圧±16V
[5]結論
電
流源で駆動させれた出力バッファをボルテージフォロワとして働かせたいならば、(電圧スイング/電流源のインピーダンス)
の1/10以下の電流で出力電圧のフルスイングが得られるように出力バッファの電流増幅率を決める必要がある。電流増幅率が小さいとボルテージフォロワー
は定電流アンプとして働いてしまうからだ。
[6]回路図
最後に各出力バッファの回路図をまとめておく。
図5-1 ダイオードバイアス型バッファ
図5-2 単純カレントミラー型バッファ
図5-3 電流補償型カレントミラーバッファー
図5-4 trpower0901改2のバッファ
図5-5 ダイヤモンドバッファ
図5-6 通常のダーリントンバッファ
<コメント>当たり前の結論だけど、NFBをかけたアンプしか作ったことなくて裸特性で電圧ドライブなのか電流ドライブなのか無頓着だった人には意外と盲点だとおもう。少なくとも著者は理解してなかった(笑)。定電流回路の出力インピーダンスが結構低いのにも驚いた。
(09.07.10 追記)
通常のダーリントンバッファを付け足した。
2009.06.30 sけいし (skeishi@yahoo.co.jp)